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LIFE SPAN(老化は治療可能な病気)
この本には長寿に関する研究、言い換えると健康で永く生きることに関する研究者の貴重なアドバイスが多く含まれており、多くの人々が読んでみるべき本になるが、多数の専門用語が使用されている為に理解するのに時間がかかる、医学知識のある人々は実証データが付いていない為にコメントしにくい、人々の健康状態改善データは長期にわたり検証しなければならず、その間に様々なことが起きるので、例えばNMNにより改善したかどうか立証しにくいなどの難しい点が多数ある。
I.生命の誕生と分化
誕生間もない胚(卵割を始めて以降の発生期にある個体)は未分化の細胞の塊に過ぎない。どの細胞も隣の細胞と全く変わらず、完全に同一のDNAを持っている。にもかかわらず、やがて何百種類もの細胞に分化(細胞が分裂増殖し成長する間に互いに構造や機能が特殊化する現象、脂肪・血管・骨・軟骨・骨格筋・心筋・神経・皮膚などに分化)して人体を形作っていく。だとしたら、神経細胞と皮膚細胞の違いを生んでいるのは何なのか。その答えがエピゲノムだ。どの遺伝子のスイッチを入れ、どの遺伝子をオフのままにしておくかを調節するための仕組みと構造の総称がエピゲノムである。私たちの生命活動をコントロールしている割合で行けば、ゲノムよりエピゲノムの方が圧倒的に大きい。
外分化:日光や紫外線を浴びて、DNAを損傷した後などでは、エピゲノムに大幅な調節がなされる。皮膚細胞だったものが、違う振る舞いを始める。胎内ではスイッチが切られ、その後も切れたままでなければならなかったはずの遺伝子が、オンになってしまうためである。今やその部分は90%は皮膚細胞だが、10%は違う細胞の寄せ集めと化す。こうなると皮膚細胞として実行すべきことがうまくできなくなって行き、体毛の生成、皮膚の柔軟性維持、傷の治癒といった機能に支障が生じる。これをDr.Sinclairは外分化と呼び、老化の原因と指摘している。
II. 老化の原因
1. これまでの老化の理由
a. 遺伝子の突然変異が蓄積されることにより、老化が引き起こされる。
b. フリーラジカルの電子は奇数個である為に、活性が高く、DNAを酸化させて傷つける。
2.クローンによる矛盾の発見
クローン(ヤギ、ヒツジ、マウス、ウシで成功)は大人の体細胞の核を生殖細胞に移すことにより誕生し、遺伝子変異の無いクローンが誕生するので、遺伝子の変異が老化の主な原因であるとするのは矛盾する。
3. Dr.Sinclairの説:DNAは老化しても損傷していない。老化の原因はエピゲノムの変化による。エピゲノムの情報は「クロマチン」という構造にしまわれており、細胞核DNAは長いままの一本ではなく、ヒトの場合は46本に分割され「ヒストン」という小さな球状のタンパク質に巻き付いた状態で存在する。この構造をクロマチンという。このクロマチンが更に折りたたまれたものが染色体になる。
ヒストンが脱アセチル化されると、DNAへのヒストンへの巻き付けが強まり、DNAの情報が読み取れなくなってタンパク質の合成が行われない。逆にアセチル化するとDNAの巻き付けが緩んで遺伝情報が読まれるようになり、タンパク質の合成が開始される。この仕組みで遺伝子のスイッチをオンにしたり、オフにしたりすることが出来る。
III. 長寿遺伝子の活性化
細胞を損傷させることなく、長寿遺伝子を働かせるストレス因子はいくつもある。運動、断食、低たんぱくの食事、高温や低温に体をさらすなど。
1. 運動:体を混乱させすぎない程度に軽いストレスを与えて、細胞の防御機能を目覚めされる(ホルミシス)。過度の運動を避けて毎日15分足らずのランニングで達成できる距離になる。この事により心臓発作のリスクは45%低下、全死因死亡率が30%下がる,「高強度インターバル(呼吸は深く早くなり、鼓動は最大心拍数の70−85%)」をこの間に加えると更に効果が高くなる。
2. 食事:
a. 空腹になると長寿ホルモンを分泌する脳内の遺伝子が作動しやすくなる。若返りに最も効果的な方法、
b. 植物中心の食事を摂る。
3. 運動と食事:運動と食事の組み合わせで更に寿命は長くなる。
4. 長寿に効果のある薬、サプリなど
a.
2型糖尿病の薬である「メトホルミン」は最も広く使われ、最も効果の高い薬品の一つになり、値段も安い、メトホルミンはマウスの寿命を6%伸ばすことが示されている。また、認知症、心血管系疾患、ガン、虚弱、うつ病などになる確率が低減される。
b. サーチュイン活性化物質の一つに「フィセチン(イチゴや柿などの果物の発色を助ける成分)」というポリフェノールの一種があり、フィセチンの化学構造によりレスベラトロールがより格段の効果を発揮するものとして発見された。また、健康推進に役立つ様になる分子とその誘導体として、ブドウからレスベラトロール、柳の樹皮からアスピリン、ガレガソウからメトホルミン、緑茶からエピガロカテキンガレード、野菜や果物からケルセチン、ニンニクからアリシンがある。
c. 長寿遺伝子は「サーチュイン」と呼ばれている。また、サーチュイン遺伝子から生まれてくるタンパク質酵素もサーチュインと呼ばれる。遺伝子は大文字で書かれ(SIRTUIN,SIR1からSIR7まで)、酵素は小文字で書かれ(sirtuin)、脱アセチル化酵素と呼ばれる。サーチュイン活性化化合物(STAC)としてはレスベラトロールより強い作用が確認されるものが何百とある。特に、NAD(ナイアシン、ビタミンB3から生成される)は7種類あるサーチュインの全ての活動を高める。ビタミンB3の一形態であるNRがNADの前駆体の一つであることが発見された。また、NRとは別の前駆体としてNMN(ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド)がある。体内ではNRがNMNに変換され、次にそれがNADに変わる。(前駆体:化学反応などで、ある物質が生成される前の段階にある物質)
NAD増強分子が適度なストレスを作り出すことで、長寿遺伝子が働いてエピゲノムの変化を抑制し、若々しくいられるプログラムを維持する。お陰で老化の原因となる「雑音」の蓄積が減り、プログラムが回復する。
NAD増強分子による生殖能力回復の可能性がある。従来の授業では女性は一定の年齢になると卵子を全て放出して生殖能力が無くなるとのことだが、NMNにより再び生殖能力を得られる可能性がある。人の幹細胞は卵巣にも存在し、高齢になっても新しい卵子を作れるという説もあるので、NMNにより活性化する可能性もある。
5.長寿に効果のある理由
サバイバル回路(DNAの損傷を感知し、細胞の増殖を遅らせ、DNAの損傷が治るまでは、その修復にエネルギーを振り向ける仕組み)は動物だけの専売特許ではなく、植物にも備わっている。これらの化学物質はその回路が働いた結果として生み出され、厳しい環境に耐えて生き残れと自らの細胞に伝えている。この結果サバイバル回路が動き老化が改善される。
IV. 我々は今後どう対応すべきか。
1. 積極的に対応したい人々:
Dr.SinclairはNMN 1,000mg, レスベラトロール 1,000mg, メトホルミン 1,000mgを毎日摂取して自分の体がどう変わるか試しているが、急激な変化は何が起こるか分からないので、毎日NMNを500mg程度に止めて摂取する。レスベラトロールは10年以上前に提唱されているので、人体には問題が発生しないと考えられるが、同時若返りに効果があったというデータもない。(NMNについては国産でも、米国産のNMNでも効果は変わらず、米国産のものについては、Dr.SinclairはMAAC10の如く、ラベルにGMPの文字が記載されているものを推奨している。)
2. 前向きに考えたい人:
NMNを毎日250mg 摂取する。
3. 慎重に今後の動きを見守りたい人々:
過去に多数の人々により試されて有効性が確認されている運動をし、節食をし、推薦された食材の食事を摂る。運動の際は毎日15分程度のジョギングにインターバルを加えたもの、食事にはビタミンC、ケルセチン(上記III. 4. 長寿に効果のある薬・アプリなどご参照)の多いものを積極的に摂ることなどが挙げられる。
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